サリー・ボール

 

どこに、どこに世界の涙はあるのか?

―レトキー『迷える息子』

 

Ⅰ.

 

私は今 本を読んでいる。人間の

消費活動についての本。「繁栄」ということの意味―

と、その盲目的なまでの追求― は、

いかに資源の消費に立脚しているのか。

それは組織的にやっていることだから、

根絶することなどできない。いや、根絶の可能性はゼロではないけれど、

果てしなくゼロに近い。全ては死ぬ運命にある。

 

友人のKは21世紀のアメリカと

衰退期のローマを巧みに比較してきた。

沈みゆく帝国、けれどその様相は違うし、

規模も違う。 自滅の道

 

ある一つの生き方の破滅ではなくて

「すべての生命」の 。人間を人間たらしめている

世界の条件の。今ある姿の蜂や、

小麦の。

 

今日「繁栄する」ということは、

再び繁栄するという選択肢をつぶすこと

を意味する。

 

私の会社も、大学も、

そして子供の学校

(公共の利益を謳う)も、

「繁栄」に向かいひた走っている。

 

そこにある矛盾した目的意識を感じ取れるでしょうか?

生徒のため、

管理職のキャリアのため。

 

成功とは、いつでも、他者より優れていること、

「優位性」を意味する。

なぜなら、自分の価値を証明するのは、「私のものはあなたのものより優れている」

ということだから―

 

繁栄するということは、傷つけること。私は本を読んで、知る。

適応し、繁栄したいという欲望 ―― そのために人は死ぬ。

 

「買うのだ」―

 

待って、ということはアメリカ中西部は、ずっとあれでよかったということ?

あの、忘れられた、誰にも見向きもされぬ町が?

 

Ⅱ.

 

そうね、ローマ数字でいくことにする。

どうも。

 

Ⅲ.

 

ここで似たような破滅のことを

考えてみましょうか。

 

例えば目標を低く設定して、

達成を容易にすること。

 

(小学校の算数の授業や、二酸化炭素の排出上限のように)

 

あるいは、数値化できることを、

数値化できない(もしくはしづらいこと)

「よりも」、ではなく

「の代わりに」

評価の対象にすること。

 

実用性が第一。

と言っても、競争力を本質として、

定義される「実用性」だけど。

 

(例えばそれは、

科学技術教育、対、人文学。

成長、対、人生。)

 

効果的な破滅の方法。

たとえば、

騙すことを基盤にした

社会のルール。

 

伝統的な結婚をして、

伝統的じゃない年金暮らしを見ないようにする。

 

注意を向けない―

 

その破滅は、

話し手が

認知バイアスを狙って話すとき、起こる。

 

誰が聞いているのか?

誰が聞くべきなのか?

 

聞いた?チェーホフがレオンチェフに宛てた手紙のような「批判」を、

それとも…「黒幕」を。

 

空の樽が、耳の中でガラガラと音を立てる。

 

Ⅳ.

 

人は想像することができるのだろうか?

「資源の枯渇」を?

その言葉は重みを失い、

草のように死んでいる。

 

Ⅴ.

 

痩せこけたホッキョクグマが目を覚ます。

 

二ヶ月前のこと、

 

死んだコウモリで埋め尽くされた屋根裏部屋

 

成金趣味の豪邸が沈んでいる。(アトランティスのごとく、

 

水が、ガラスのない2階の窓から流れ込み、

 

そして3階―)

 

別の家も、嵐でふき飛ばされ、

 

レンガの煙突だけが残され、

 

傾いた物置に

 

まだ使えるものがたくさん入っている。フックにはエプロンが。

 

家から剥ぎ取られて、

 

高速の脇にぽつんと取り残されている。

 

茫漠と広がる荒野。

 

シリアの子どもたちと、

 

医者の卵たち

 

道半ばで、行き倒れている。

 

独房で溺れているその他の人々。

 

ガーナの牛たち。

 

牛が見つめる野原には、山積みになった

 

マザーボード。

 

ワイヤーに、プラスチックに、金属

 

回路から染み出す化学物質

 

あちこちで火が

 

地から朗々と立ち上がる…

 

海鳥の腹を解剖するところは

 

見たことがある?

 

見るためには、URLが要る。

 

見るためには、システムを立ち上げる。

 

エネルギーを使って、そう。

 

資源の枯渇に加担して。

 

あの人たちと

 

同じことをして。

 

Ⅵ.

 

実を言うと、この詩を見せても、

(メールでにせよ、下書きにせよ、

手紙でにせよ、雑誌でにせよ、

薄い本という形でにせよ―)

詩は、鳥を救うことには

寄与しない。

むしろ殺すことに、加担する。

人間を。

 

昨日、2羽の

青サギを見つけた。

 

一日中そのことを、

言いたかったんだけど。

 

Ⅶ.

 

おなじみの悪口が現実になる

「そんなことを書くだけ紙の無

 

Ⅷ.

 

なんといっても、

世界には美しいものが

まだたくさんあるのだ。

 

美しいと思わせてくれるのだ。

 

素敵な灰色の翼が、

川面に映えて、低空飛行をしている。

波打つ水流は

まるで永遠に伸びていくように見える。

樺の並木に囲まれている…。

時折鳥は、獲物を狙うような(あるいは身の危険を感じたような?)声をあげる。

 

黄金色の葉をつけた農園の樺の木は、

幾何学的に、あくまで均等に並んでいる。

 

野性を忘れさせる場所は

たくさんある。「詩。

 

それは、世界を愛する方法の一つ」

とドビンズは言う。

 

閉じ込めて―

私を前に閉じ込めて。

 

Ⅸ.

 

見て。

保護を求めてる私。

ちなみに、保護に失敗するというのは―

 

いまの世代が持つ原罪を放棄すること

(つまり、すべての世代の、ということ)

どうしたら早く忘れないでいられるのだろう?

 

Ⅹ.

 

サギから感じられる喜び。

畏怖と感謝。

 

サギは私が輝く秘密を見つけたときにも現れた。

紫色の湖は

ニューハンプシャーの丘のくぼみを埋めていて、

 

サギは海が

波打ち、朝焼けのピンクのストライプで輝くときにも

現れる。

 

月が前のめりになり、山にかかって、大きく、まるで愛の証に与えられる

何かの賞みたいに輝くときにも

現れる。

 

Ⅺ.

 

愛もそう! ― 愛情というのは

基本的に

安心するためのもの。

 

何もかもよくなる、という証として。

 

私の本に書いてある。終わりは

 

想像するには壮大すぎる。無力感は大きすぎる。

 

解決策はあっても、

いま当然だと思っている人生を捨てるようなやり方は

選べない。

 

そして、そう、愛情。

 

それは人がまだ感じることのできる

 

興奮。

 

きっとあなたも、

 

自分の愛を見つけるんだと決めて

 

それを胸に吸い込んで、

魂には

 

言わないようにする。

 

Ⅻ.

 

愛情が人類を救うと言っているのではない、ジャラジャラチーン!

愛情はあったほうが、無いよりはマシだ、と言っているにすぎない。

少なくとも、他の欲望よりはマシでしょ、と。

 

(責めるとか)。

 

「ミミズよ、一緒にいてください。今は試練の時です。」

 

その本が言おうとしていたのは

 

アートだけが

 

(アートと思想だけが)

 

影響力を持つということだったのか?

 

つまり、安心させてくれる、と?

 

あるいは、解決してくれる、と?

 

ⅩⅢ.

 

ノルウェーは、車輪のついた乗り物に乗ってくる難民しか受け付けない。

徒歩ではダメなのだ。そして、心優しいノルウェー人は、

車で難民を連れてきてはくれない。

歩いてきてはいけないのだ。

しかし自転車で来ることは、できる。

 

それで、ロシアとの国境は、大量の自転車で埋め尽くされている。

移民に一刻も早く立ち退いて欲しい人たちが、

自転車を集めてきて、

それに乗る人たちは、反対側の国で自転車を捨てていく。入国完了。

 

冷たい道路。

ステルス機が並ぶ。

 

ⅩⅣ.

 

これが世界。

そして我々は選ばなければならない。

まだ地球が私たちのものであるうちに、凋落の程度がどうあれ、

それを受け入れるにせよ、拒むにせよ。

 

セーヌ川で泳ぐ? 了解、

ノジャンと、ノジャンにある原発の、

東、西?

川はどっちに流れてる?

 

風はどっちに吹いている?

 

訳:青木直哉